みなさんは北海道といえば、まず何をイメージするでしょう?
富良野のラベンダー畑、美瑛のモザイク模様の丘の風景、どこまでも続く牧草地、まっすぐな道路。
少し前なら札幌の時計台とか、「少年よ大志を抱け」のクラーク博士像あたりでしょうか。
以前なら札幌あたりの風景や施設が、北海道を表現する風景としてよく使われていましたが、富良野のブームをはじめ、最近では「旭山動物園」なども有名になり、北海道の「地方」の存在感も高まってきています。
ファームデザインズのある釧路、根室地方はどんななの?と聞かれたら、私は迷わず
「日本のスコットランドですよ」と答えています。

冷涼な気候のため,あまり高い木はなく、どこまでも緑の丘陵が続いています。時折現れる原始の姿を残した川。「河原」があって水しぶきを上げる、いわゆる「渓流」は少なく、原野の川らしくとうとうと流れるチョークストリームです。海岸線にでると断崖のクマザサ地帯からいきなり北の荒々しい海へ落ち込む荒涼とした風景が広がります。ここにゴルフコースがあればまさしくスコットランドだ!と思わせる風景です。
私が学んだ帯広畜産大学がある十勝地方も、北海道らしい素晴らしい風景がそこかしこに広がっていますが、もう少し木々が太く、高く、またきれいに並木として整備されているところが多い事もあって、どちらかというとドイツやフランスの農村地帯を彷彿とさせる風景です。釧路根室地方よりも歴史の古い(といってもまだ5〜6代目くらいですが)ので、景観としてかなり洗練されつつあるように思います。釧路根室地方は本格的に「開拓」に入ってまだ2〜3代目です。手つかずの自然がまだまだ残されていて、もう少しワイルドな雰囲気を醸し出しています。そして私はそんなこの地方の風景が大好きなのです。
北海道の牧場の現場は、今どうなっているとお思いでしょうか?
牧場といえば牛舎の中に牛がつながれていて、時々放牧に出して・・・と、みな一様の風景を思い浮かべます。
でも実際は
千差万別。様々な形態の牧場があります。そして、これはまた後ほど詳しく説明しますが、牧場によって牛乳の味はぜんぜん違うのです。
まず、いま主流の,そして今後も発展して行くであろう形態は「フリーストール」という牛舎形式を採用した牧場です。

「フリーストール」とは直訳すると「自由な寝床」です。
牛舎というとずらっと牛がつながれていて・・・という映像を思い浮かべる方が多いでしょうが、この飼い方は牛舎の中で牛をつながず、全く牛の自由にさせる。お腹が減ったら「食堂」にいき、のどが渇いたら「水飲み場」に行き、眠くなったら「ベッド」を自由に選んで好きなところで寝る。そんな風に設計された牛舎で牛を飼う方式が「フリーストール」方式です。一見とてもいい事ずくめの飼い方に聞こえますが、これはとても難しく,牛舎の綿密な設計、エサの与え方までトータルなマネジメント能力が必要とされます。牛は牛舎という狭い空間でどう行った団体行動を取るのかなど、「行動学」の発展抜きではなしえなかった技術でもあります。実際ベッドのパイプの形状、寸法、敷料などの材質一つ間違えても,牛たちは思ったようにベッドに寝てくれず、ベッドの上に糞を落としたり、パイプに挟まって立てなくなったりしてしまいます。
反面、とてもよく設計されたフリーストール牛舎では,牛たちは春夏秋冬とても快適に過ごす事ができます。牛たちを「より効率的に」「より大量に」飼う場合は、この飼育方法が人にとっても牛にとっても一番効率がいい方法と思います。
貿易自由化が推し進められる国際社会において、否応なしに過酷な効率化を求められるようになる日本の農業ですが、低コストを目指す方法としては、より多くの牛を飼い、トータルコストを下げる方法が一つの方法とうたわれています。私としては素直にうなずけない面も多々あるのですが、政府一丸となって農業の大型化=経営の効率化=国際競争力の強化という図式を描いているようです。農業の大型化イコール必ずしも効率化ではないのが,農業の難しいところなんですが・・・いや、おもしろいところかな。
このフリーストール牛舎とそれに伴う科学的な理論に武装された「最先端酪農」により、いままで100頭も搾乳をしていれば大型牧場といわれていたものが、飛躍的に飼養頭数を増やす方向にむかい、500〜1000頭を搾乳する農場が当たり前になっていくでしょう。北海道ではすでに何カ所かで出現しています。アメリカでは10000頭を越えるメガファームもあり、24時間交代制で搾乳をする農場がかなり前から出現しています。大型化への道を進む酪農家は,否応なくそうした方向へと向かわざるをえないでしょう。
牧場規模の飛躍的な大型化、これが北海道酪農がむかう、確かな一つの方向なのです。
さて、北海道にはもう一つの方向を模索する酪農家もいます。
ニュージーランドなどで行われている「放牧」を主体とした酪農です。「あら、放牧なんて当たり前じゃないの?」と思われるかも知れませんが、今までの「放牧」はただ牧草地に「いってこーーーーい」と放すだけの放牧です。それをもっと効率よく、牧草が一番栄養価の高い時期に牛が食べられるように,人の手で上手にコントロールしながら放牧していくやり方が、ニュージーランド方式の放牧です。広い牧草地を牛たちが1日で食べきる程度の広さに細かく区切り、その区画に順番に牛たちを放していきます。牛たちは、短く柔らかく、栄養価の高い牧草を毎日食べられるため、牧草の栄養価をとても効率よく利用できます。うまく管理された放牧は、それこそなめるように牛たちが食べていくので「ストリップ放牧」とも呼ばれるほどです。

放牧は最も簡単な牛の飼い方と思われがちですが、実はあらゆる知識を総動員しながら、毎日毎日真剣勝負のとても難しい飼い方でもあるのです。それは牛舎の中でいつも一定のエサを与える飼い方とは違い、自然条件をもろに受ける飼い方だからです。暑い日、寒い日、雨の日、晴天の日、風のある日、嵐の日。毎日毎日牛たちがおかれる環境が変わります。それを観察し,少しでも牛たちが快適に過ごせる環境を整えてやらなければなりません。
放牧が一番自然の理にかなっている,と主張する酪農家もいます。より自然な,という事に関心を持つ消費者の方たちと相まって、狭いところに押し込んで牛を飼うのは「かわいそう」という感情論に発展したりもしています。自然が一番!と主張する方々には、思想的な事、主義的なことが深く絡み、なかなかめんどくさいことも多いので深くはここで語りませんが、効率的な飼い方という面においては、放牧はけっして引けを取らない魅力的な方法と考えています。
土地の価格が安く、広い牧草地を確保できる釧路根室地方では、こちらももう一つの有力な牧場の将来像と思われます。本州方面や,同じ北海道でも畑作ができる地域=土地が高い地域ではなかなか難しいでしょうが、広い土地を持ち、200〜300頭の牛を放牧だけで飼う。そうすれば他に飼料などを買う必要もなく,とても低コストな経営が可能です。牛1頭から生産される牛乳の量は少なくなりますが、自家製の牧草以外何も購入する必要がないので、結果手元に残るお金が多くなるという仕組みです。また、穀物を牛に与える場合、多くの場合は外国からの輸入飼料なのですが、穀物相場や円相場の変動によっても大きく価格が上下したり、外国の作物の出来不出来に左右されたりと、いろいろな面で翻弄されるのも事実です。自前で全てまかなえる経営は、派手ではありませんが一番確実な方法ではないでしょうか。
北海道の牧場のもう一つの方向は、この「放牧」を効率よく行う人たちです。
で、どっちの牛乳がおいしいのかって?消費者としてはやっぱり、そこに感心が行きますよね。
答えはどちらもそれぞれのおいしさがある、でしょうか。
はぐらかしているわけではありません。本当にそうなのですよ。ちょっとゆっくりと聞いて下さいね。
フリーストール方式で大量の牛を飼育し、穀物をいっぱい食べさせて、1頭の牛からいっぱい牛乳を搾る、というとなんだか過酷な条件で牛を飼い,虐待しているように聞こえるかも知れませんが、そうではありません。そもそも、牛ってとても神経質で、「虐待」されながらもいっぱい牛乳を出すほど、太い神経はしていないんです。牛乳をいっぱい出してくれているというのは、牛が快適な環境におかれている一つの証拠でもあるのです。
飼料用のトウモロコシなどをたっぷり与えられている牛たちの牛乳は、とても濃く、コクもあります。しかも1年中栄養計算をしっかりされた同じような栄養価のエサを与えられるので、季節による変動はさほどありません。
放牧で飼われている牛たちの牛乳は、もちろん季節によって大きく変動します。春、夏は牧草の薫る牛乳。乳脂肪は少し下がり,さらっとした飲み心地になります。夏だからそのほうが飲みやすくもあります。秋から冬にかけては干し草などの貯蔵飼料が主体となりますので、乳脂肪は高く、コクのある牛乳となります。冬には人間の体もそういった食べ物を要求しますので、これまたちょうどあいます。
それぞれの飼い方によって,それぞれ特徴のある牛乳が生まれるというわけです。自分の好みにあった牛乳を探したり、季節によって移り変わる牛乳の味を楽しんだり、そういった楽しみ方をするのがおもしろいと思います。あなたは牛乳ってどれもこれも、または「いつも」一緒だと思っていませんか?
ただ、それはうまくいっている酪農家の牛乳の事。もちろん酪農家の技術力も千差万別。最先端の機械を導入していても、技術が伴わないと牛たちに悪影響を及ぼしています。また、放牧をしているからといって、必ずその牧場の牛乳がおいしいとは限りません。先にも書いたとおり、日々変わる自然界に対して、キチンと管理ができていないと、かえって牛たちはストレスを感じ、おいしい牛乳を出してくれません。
残念な事に、市販されている牛乳のほとんどは、いろんな牧場から集められた牛乳を調整して作られているので、「平均して」おいしい牛乳になっています。一流の酪農家が生産する、とってもおいしい牛乳が飲みたければ、現地に行き、農協へ出荷される前にその酪農家から分けてもらうしか方法がありません。一般の人にはちょっと無理ですよね。ファームデザインズの牛乳も含め、百貨店やスーパーで個別のブランドで販売されている牛乳は一つの目安になります。その牧場の牛乳だけでしか作られていませんし、自分の牧場のブランドで販売するような酪農家はまだまだ少なく,それなりに自信を持って販売に踏み切っている場合が多いからです。でもそれが1番かというとそうとは限りませんよ。(笑)
北海道では農協に全て出荷するのが当たり前なので、一流の酪農家も何の違和感もなくそうしている場合がほとんどです。牧場の仕事だけでも大変なのに、わざわざ多大な設備投資をして、自分で牛乳を販売するような酔狂なやつは、ファームデザインズを含め、ごく少数です(笑)
本人は自覚してないかも知れない,隠れた素晴らしい牛乳が、まだあるやも知れませんよ。
北海道へご旅行の際は,どうぞ勇気を出して、「これぞ!」という牧場を見つけたら「牛乳を少し分けてもらえませんか?」とお願いしてみては?
まず、イヤだという酪農家はいないと思います。自分だけの MY FAVORITE MILK を探し出すのも、楽しいですよ。
あ、牛乳は必ず沸かしてから飲んで下さいね!
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